合格
絶望的な思考を嘲笑うように、男は『アイス・ブランド?』の切っ先をこちらに向け「……ぐふっ」その胸元に、短剣がはえていた。
「ちょっと1人にかまけすぎじゃない? 試験者は全部で12人いるのよ、試験官様」
やや甲高い声と共に短剣―50センチ程の長さと両刃の刃……『アイス・ブランド』と同系統の熱量操作系ブレイン・ウエポン『アゾット』―が引き抜かれる。男の胸元から滝のように血が噴出し、その身体が凄まじい速度でスーツごと燃焼をはじめた。
機動性を重視しているのか、心臓を守る薄い装甲こそあるものの、他の臓器や、関節部を守る装甲は一切ない超軽量型の黒いスーツを身にまとっている女は、短いその黒髪をかきあげ、頬にかかっていた男の血を拭った。崩れ落ち、燃え続ける男を無視し、『アゾット』を手にしたまま歩み寄ってくる。
雪は吹き荒び、左腕と左足からは未だ出血が続いている。悪寒が、止まらない。
「クレイグめ、油断しおったか」
背後からの声。いつの間に後ろを取られたのか。
「……『メモリー』くらいは届けてやるか。奴に親族がいたかどうか」
「まさかとは思うんだけど、オジさん。不意打ちだったから合格取り消しとか、試験官殺したから合格取り消しとか、そんなこと言わないでしょうね?」
前方の女に隙を見せないよう、声の主を見やる。
各臓器・各関節を守る標準的な厚さの装甲を備えた、白のカラーリングのスーツに包まれたその身体は、中肉中背で特徴らしい特徴が見当たらない。しかし頭髪の大部分が後退した禿頭で、左目には眼帯をしているため、一度見たら忘れられない面持ちだ。
「それこそ、まさかだ。そこの少年がクレイグに刃を突きつけた時点で、勝敗は決していた。普通なら、刃を突きつけるなんて真似はせずそのまま喉を掻っ捌くからな」
……寒い。いくら零下30度に、迫ると言っても、寒過ぎする……それに……雪明りが、あるのに、この暗さは……なんだ……?
「何より、この試験の合否の判断基準は伝えているだろう? 『試験終了まで生き延びろ』。生き延びるために、試験官を殺しても不合格にはならん」肩を竦め、さして嬉しくもなさそうに続ける。「まぁ、合格おめでとう。もっともこの調子では……おい、どうした?!」
どうなってんだ……とにかく、ヤバ……イ……
自身の身体が崩れ落ちるのを自覚する前に、レイ・バーンハルトは意識を失った。