2月20日
「基地内の事は自分達で把握しろ。弾薬や食料、スーツ、ブレイン・ウエポン関係の調達は、そこにいるファティマ婆さんに聞くといい。それから」
「ちょっと待ってくれ」ベッドから身体を起こし、ルナを見やる。「俺は、自分でエトランゼ13の入隊契約書にサインした覚えは、無い」
この一言にクレアは唖然とし、ファティマ婆さんはルナを怪訝そうに見つめた。
ルナは持っていた書類から、一枚の紙切れをこちらに差し出した。
「……」受け取ったその紙切れのサインは、確かに自分のもの。文言はここ、エトランゼ13入隊意思の有無……間違いない。だが、確かに……
「酒でも、飲んでいたのではないか? 酔っ払って、何の書類なのかわからずにサインしてしまった、という話はここではまだ聞かないが、他所ではちらほらと聞く」
酒……そうだ。あの時、飲んだ。しかし、酒だけで間違うとは思えない。
いや、泥酔したあと、耳元で、こう囁かれればどうだ。
契約書が汚れてしまった。もう一枚持あるから、もう1回サインしてくれ、と。
そもそも、サインして、どうして、エトランゼ13の関係者がロンデニウムの寮へ、すぐやって来れた? 誰かが、この傭兵達に連絡したからに違いない。誰が?
「……まさか」
「思い当たる事柄が、あったようだな」手から俺のサインを取り上げる。「同情はするが、例外は無い。あらかじめ言っておくぞ、レイ・バーンハルト。君が生きてここを出るには、一年の契約期間を全うする他無い。脱走及び敵前逃亡は、全て、死罪だ。
あぁ、戦わないよううまく立ち回ろうと思っても無駄だぞ。脱走防止のため、契約者の身体には発信機を埋め込む事になっている。結果を出さなければ、どうなるかはわかっているな?」
「ちょっとルナ、商談はどこでやるんじゃよ! 年寄りを少しは労わらんか」
「ちょっと、スーツの事で聞きたい事があるんだけど」
硬質な靴音をたててルナが、そしてファティマ婆さんとクレアが部屋を出て行く。
そんな事が出来る人物、他に、誰かいるのか?
共に酒を飲み、しかし傭兵連中が部屋に踏み込んで来た時にはいなかった人物しか、該当する者はいない。
……アスカ…………お前なのか…………!
窓に目を向けても、僅かにある酸性林を全て枯らそうと、凶悪な雪が降り続けている。2月20日。レイ・バーンハルトは18歳の誕生日を、エトランゼ13内の病室で迎えた。