見解
「シン、君は行かんのか?」
壇上のルナからの呼びかけ。シンと呼ばれた。顔の左半分に火傷の痕がある男が、いつの間にか隣にいた。
「お前が今回出るという事は、戦闘を適当に切り上げる心積もりだからだろう。制限のつく戦場は稼ぎにくい。稼げる算段がつかん戦場に、急いで出る必要性は感じられん」
シンの問い掛けにルナは答えない。ただ、パネルを見上げていたクレアが、そっか、と頷いていた。
「あんたの立場からすれば、ミュンツァーにこのエトランゼの戦力を、高く売り付けたいのよね。兵はともかく、資金もこっちもちじゃ、ミュンツァーに組み込まれる前と変わらない。損ばかりじゃ、やってらんないものね」
クレアの呟きに、シンは少しばかり彼女を眺め、ルナも微笑していた。
「ちょっと待て! それで討ち漏らしがあったらどうする?! ミュンツァーに敵部隊が侵入したらどうするつもりなんだ?! 危険に晒されるのは住民なんだぞ!」
叫びに、ルナとシンは互いの顔を見やった。クレアは目を丸くしてこちらを見ている。
「……敵を殺す前に、降伏を勧める訳だ」アタタタ、と額に手をやるクレア。
その一言に、ルナが片眉を上げた。「降伏を勧める?」
「あぁ、コイツ、入隊試験の時、追い詰めた試験官相手に降伏を迫って、逆に返り討ちにあってんの。もうあん時は、呆れてモノ言えなかったわ。あたしが17年生きてて、トップスリーに入る『笑える場面』だったけど……今の聞いて、納得したわ」
ま、精々死なないようにね、と手を振って去っていく。
「……俺が戦う周囲には一切近付くな。仕留めたはずの敵を助けられては敵わん」
踵を返したシンは、冷たい一瞥すらこちらに向ける事はなかった。
「まず、先程の疑問に答えておこうか、レイ。まず、ミュンツァーは我々のオーナーではあるが、今回の戦闘に対して正当な報酬を支払っている、とは言い難い。エトランゼ13の戦闘によって生じるあらゆる金銭的負担を彼等が担う、とエトランゼ13とミュンツァー間で取り交わされた戦闘契約条項には盛り込まれている。契約を完全に履行していないのであれば、こちらとて完全に履行する義務は生じない、というのが私の見解だ」
壇上で両肘を突き、こちらを見下ろすルナの青い瞳はどこまで硬い。
「だが、それで死ぬのはミュンツァーの住民だぞ! 政府高官ではない!」
「残念ながらその通りだな。政府高官を死なせる事が出来たなら効果的に譲歩を引き出せるのだが……この際だ、住民でも兵士でも構わん。どちらにせよ、我々に損害はないのだからな。考えを改めたミュンツァーがこれまで通り必要経費を支払えばよし、支払わなかったとしても我々にデメリットはない」
……バカな……そんな……
「……有り得ない。人の、命を、何だと思っている!」
壇を下りたルナは、疲れたように力無く首を横に振り、俺の肩を叩いた。
「君こそ、ここをどこだと思っているんだ? エトランゼ13……地獄の一丁目だぞ? 人の命など、紙切れ一枚よりも安い商品にしか見えぬ、悪魔の巣窟だ」
ルナの姿が、人ではない何かに、見えそうな気がした。
「人を殺すのが嫌ならば、自らの死が恐ろしいと言うのなら、苦しまぬよう、死刑台で死なせる慈悲くらいは私にもあるぞ。どうする?」
そんなの決まっている。腰に携帯している陰陽の柄をきつく握り、睨み返した。
「俺は、死なない……そして、誰も殺さない!」