必要性
絶対的な物量を誇る凶器が己を食い破るべく射たれ……
自身の後方から飛来した氷刃が、次々と氷槍を砕いていった。その大きさは敵手の氷槍よりも一回り小さいにも関わらず、だ。強度も鋭さも、氷刃の精密な射撃も、一見して分かるほどに、敵手とは比べ物にならない程レベルが高い。
影が、後方から自分の横を駆け抜けていく。その横顔には、火傷の痕が見えた。
確か、シンという名前だったと記憶している、冷たい緑の瞳を持つ男。
敵手は必死に氷槍を操作して事態を打開しようとしているが、シンの氷刃に完全に押され、防戦一方だ。さらにシンは彼自身が放った氷刃を爆発させ、それに紛れて接近している事に敵手は気付いていないだろう。雪煙の中駆けるシンは、左手に生み出した氷の鎖を投擲。敵手の剣に巻き付いた瞬間、敵手ごと剣が凍結し始める。慌てて剣を手放した瞬間、懐に潜り込んだシンが、アイスブランド?で、何の躊躇いも無くその首を切り飛ばした。刀身を通して冷気を発したのか、敵手の身体は即座に氷結を開始し、出血しない。
「懺悔は終わったか? なら、心置きなく砕け散るがいい」
身を翻し、指を弾くと同時に、首無しの遺体を収めた氷の棺は粉々に砕け散った。
吹雪が治まらないにもかかわらず、今までの戦闘で引火したのだろうか、トレーラーは轟々と燃え盛っていた。
シンはこちらに歩み寄り……
「ありがとう、たすか……」礼を言いきる前に胸倉をつかまれ、強引に立たせられると、殴られた。口の中に鉄錆の味が広がる。
「何を……」
「何故あそこで、腕だけを取りにいった? 何故首を跳ねるか、心臓に刃を突きこまなかった? それが無理ならば、どうして二撃目を放たなかった?」
……敵の左腕を刺し貫いた時の事を言われているのだと気付き、立ち上がると同時にその緑瞳を睨め上げる。
「戦闘力を奪えば、命まで奪う必要性はないだろう!」
何故どいつもこいつも殺したがる! 死んだら生き返れないんだぞ! やり直す事も後悔する事も、何もかも出来ないんだぞ! 残された者はどうすればいいんだ?!
激情が胸を占める。しかし、対照的にこちらを見やる緑瞳はどこまでも冷たかった。
「誰か、誰かぁぁぁ! 血が、血が止まらねぇよぉぉ……!」
「ミュンツァー軍でも、エトランゼ13でも、グリーンファウスト軍の連中でもいい! 誰かロイドを助けてやってくれぇぇ! このままじゃロイドが死んじまう!」
その声に、シンは舌打ちをすると胸倉から手を離し、トレーラーへ向かって走り出す。自分も、彼の後を追った。
横転したミュンツァー軍のトレーラーの陰。二人の男が必死な形相で、地に横たわる男の出血を止めようとしていた。胸元には一本の氷槍が深々と突き刺さっており、下手に動かす事は出来ない。呼吸は微弱で、顔面蒼白。傷口が凍傷をおこしかけていた。腕には、ミュンツァー軍所属の腕章がある。
「氷槍が何回も爆発して……気付いたらロイドの胸にこれが突き刺さってたんだよ!」
「ロイドは助かるよな? 俺達の同期なんだよ、頼む、ロイドを助けてくれよ!」
シンは、一瞬だけ燃えるような炎をその冷たい瞳に宿し、こちらを見据えた。
「貴様が、奴の命を奪うことを躊躇していなかったら、こんな事にはならなかった。命を奪う必要はなかった、とそれでも言い張るつもりか、貴様は……!」
その一言に、頭を強く叩かれた気がした。
シンは膝をつき、傷を検めていく。
「氷槍には触るな。肺や心臓を傷つける恐れがある。これから重要器官を傷つけぬよう、氷槍を熱量操作で融かす。止血は、その後で血管を炎で焼き切る他ないな。それと、熱量操作系で炎を生み出せるイクステリアが他にいないか探して来い。俺一人では止血まで、手が回らんかもしれん。それとこいつの血液型は何型だ? 簡易式で構わん、輸血出来るような器具はないか?」
「A、Aだ。俺が同じ血液型だ。器具はトレーラーの中だ、俺が取ってくる!」
「お、俺は炎を操作出来るイクステリアが近くにいないか、さ、探してくる!」
皆が何かを言い合っているが、耳にろくに入ってこない。
俺が……俺が躊躇ったせいで、この人は……死ぬかもしれない……