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「……うぬぅ。街道を通っていないのに、まさかこんなにあっさり着くとは」
ミキサー同然のトレーラーに揺らされて三日目。怪生物にも、野盗にも出会う事無く、商談の地であるドレスデンに到着したアヌ婆さんは先程から不平をこぼし続けている。
「いいじゃないか。怪生物なんて出た日は、一般人の俺は生きた心地がしないよ」
「金を出してるんだからその分は働いてもらわんと……ったく、最近の若造は」
アヌ婆さんは『怪生物に遭遇してない』という理由で片道分の料金を出す事を当初拒否していたが『ドレスデンまでの護衛って契約内容でしょ?! 怪生物とか野盗と戦う、って契約じゃないわよね?』とクレアが喧々囂々と突っぱねた挙句『ドレスデン市内での護衛は契約に入っていないわよね〜?』と別途料金を請求したおかげで、アヌ婆さんは先程から愚痴を言い続け、それをベネットが宥めすかしているのだ。
金がもったいないと言う実に明快な理由で、アヌ婆さんの護衛は俺一人。クレアは所持金を三倍に増やしてくると豪語してカジノに赴き、ジャクソンは黒髪が腰まで伸ばされているのが特徴的な美人を熱心に口説いた挙句、つい先程平手をその浅黒い頬に見舞われたため、意気消沈して俺達の後ろをゾンビのような足取りでついてきている。
「……クソ、今日は自棄酒だ。ベネット、シロ、オマエたちも付き合えよ」シロ? 俺の事か?「そこで目を点にして、オレ? って顔すんな。シロと言えばオマエだ、トーシロ」
……戦闘の素人を略して、シロ、か。
「しっかし、いつ見てもドレスデンの高層建築はスゴイな」
ベネットはベネットで、やさぐれているジャクソンを無視。
シロだなんて失礼な綽名を拝命した俺も、ベネットの無視に乗る形で頷く。故郷のアルムアートは、技術立国として名高いミックハイルでも人口第三位の都市、決して田舎ではない。が、連邦首都のザクセンと比べても劣らない五十m級の高層ビルにはどうしても魅入ってしまう。ドームそのものも大きく、辺りを見渡せばそこかしこに有機変換植物が所狭しと植えられている。電力に相当な余裕があるのか、道路や街を照らす電灯の数が半端じゃない上に、電飾まで極々普通に小規模の商店ですら使用している有様だ。道路を走る自動車も俺達が乗ってきた四輪タイプではなく、ホバークラフト式を採用している。排気口から化石燃料特有の臭いが出ていないので、完全に電力のみで動いているか、あるいは最新のテクノロジーである水素と酸素を燃料とする方式かもしれない。近場の食堂と思しき店では、ゴミ箱の中にまだまだ手をつけられる小麦が、野菜が、肉が、あらゆる食料が悪夢のような形で山積みにされている……
ほんの、少しでいい。あの時に、食料を、水を、寒さを凌ぐドームを、都市を動かす電気を、人々を運送する車を……視界に入る分だけでいい、それだけあれば……!
「どうしたんだい? 何かあったのかい?」
アヌ婆さんが、不安そうな面持ちで俺の手を引いた。
「シロ、怪しい奴でもいるのか? オレはそれらしい気配を感じてはいねぇんだが」
ジャクソンも先程の打ちひしがれた様子からは一転、腰の拳銃に手を添え、警戒した面持ちで辺りに視線を奔らせている。
「どうしたって……アヌ婆さんも、ジャクソンも、どうしたんだ?」
返答を聞いたベネットは表情から察しても、明らかに緊張が解けたようだ。
「イクステリアがあんな恐ろしい形相で街中を睨んでいたら、人込みに危険な奴が紛れ込んでいるかもしれない、と思うだろう……なんでもないなら、あんな顔しないでくれよ」
アヌ婆さんもジャクソンも、その通りだと言いたげに大きく首を縦に振った。
平和に暮らしている人々を、街を見るのは、好きだ。
だが……これだけの余裕があるのに、それを他の都市や村々に回す事無く、浪費に回している光景を見ると……どす黒い感情が胸の奥を支配してしまう。
最初にザクセンを見た時も、アスカに注意されたな……
「こんな浪費をしている都市を見て、何も感じずにいる事は、俺には無理だ」