食虫植物Y
夢の舞台は、俺が遊びなれた田舎。
俺はその時、小学校六年生だった。
出演者
はたはた
知人Y
知人W
なのだが、普通に夢を語っても面白くは無い。
Y繋がりで、知人Y役をうどすんにやってもらおう(下の名前がYだから)
そして、W繋がりで、知人W役をカグラさんにやって頂こう(苗字がWだから)
港が近くにある、いつもの遊び場の空き地。
店らしい店もない、正真正銘の田舎が舞台の夢。
……?
何かがおかしい。違和感がある事に、俺はすぐ気付いた。
人気(ひとけ)が、全く感じられない。
ここから少し歩けば車がよく通る道路があるにもかかわらず、車の排気音すら聞こえないのだ。
俺はその無音の世界が怖くなって、必死で耳を澄ました。
ガサガサ。
? ガサガサ?
なんでそんな音がするんだ?
ガサガサ、ガサガサ!
音は次第に大きくなっていく。
何かがいた、と安心しつつも、この音は何かヤバイのでは、と俺は怖気づいた。
そう、これが全ての間違いだった。
後者の直感に従い、この段階でその場から立ち去れば良かったものを……
だが建物や駐車場、電信柱の立ち位置まで全てが俺の知っている田舎でありながら、無音であるために凄まじい違和感をかもし出しているその場から、俺は唯一音が聞こえるそれから逃げるのは、どうしても抵抗があったのだ。
ガサササササササッ!
俺の目の前に音源が現れると共に、音が、消えた。
代わりに、声が聞こえた。
「はたはた君……」
ひどくしわがれた声が、眼前の物体から聞こえた。
……文字通り、ひどくタチの悪い夢だった……
眼前の物体は、人間では決して有り得なかった。
しかし、植物を人型にすればこんな感じなのだろう、とは思った。
手足は、やたらと細い、触手のような伸縮自在な蔓が無数に絡まっていた。
胴は大木の幹だが、その胴には肉食獣のような鋭い牙が生えていた。
頭は、ラフレシアのようにやたらでかい花びらで覆われ、その中心部に知人の顔が浮かんでいた。
花びらが開き、中心部の顔を覆い、音を発する。
「はたはた君、タスケテ……」
胴の幹にある大口から、涎が垂れ、ライオンのような咆哮が聞こえた、
救いを求めるように、うどすんの手足をなす蔓が解け、俺目掛けて伸びてきた。
俺は、逃げた。
背を向けて逃げた悲鳴をあげて逃げた泣きながら逃げたうどすんの助けなんてどうでもいいとにかく逃げた。
みっともないことこの上ない逃げ方だった。
「はたはた君、タスケテヨ……!」
ガサササ、ガサササッ!
呪詛のような懇願。
束縛めいた足音。
呪いは絶えず耳に食い込み、恐怖はひたすら足を動かせる。
いくつもの角を曲がり、必死に奴の眼の届かない所へと逃げる。
だがすぐに、奴は俺を見つける。
さらには、いくつ角を曲がっても……俺を見失っていない証拠に、あの音だけは耳から離れなかった。
「誰か、誰か助けて! 誰か……!」
絶叫に応えるよう、視界の隅にあった家の扉から、知人が出てきた。
カグラという彼女はこの状況がわかっていないようで、ごくごく普通に歩き出す。
救いを求める食虫植物が、やってくる方角へ。
ガサササササササッ!
俺は、ただ黙っていた。
恐怖で声が出なかったのか。
ここで声を出せば奴に見つかると思ったのか。
カグラを犠牲にすれば逃げられる、と打算したのか。
ガサササササササッ!
一際大きな足音が聞こえると、うどすんは俺達の視界に現れた。
カグラが混乱の叫びをあげる前に、手足を構成するうどすんの蔓が彼女に伸びる。
胴の幹が、大口を開けているうどすんの方へ、足をつかまれたカグラは硬いアスファルトの上でも、容赦なく引き摺られた。
断末魔をあげることも出来ずに、カグラの下半身がその口の向こうへ消える。
ゴリッ、ガリッ、ボリッ、という骨を砕く音。
残されたカグラの上半身だけがアスファルトに落とされた音。
蛇口の壊れた水道のように鮮血が迸る音だけが、l鼓膜を破るように響く。
すでに死体となりつつあるカグラの身体は小刻みに痙攣しており。
虚ろな眼だけがこちらを見据えていた。
……どうして……見殺しにしたの……?
気付けば、複数の蔓が俺の脚を捕まえていた。
すぐに地に転がされ、うどすんのもとへ引き摺られていく。
上半身と下半身が分離しそうな引力の前には、俺の抵抗などむなしかった。
頭部の花弁の部分にまで掲げられた俺の眼前には、うどすんの……いや、カグラの顔が浮かんだ花びら。
カグラの声で、それは喋った。
「この植物、食った人の顔と意識で街をさまようみたい」
待て。
この辺りに人気(ひとけ)は何故か無い。
つまり、俺が最期の一人の可能性がある。
……ソレハ、ナニヲイミシテイル……?
「私達を見殺しにしたこと、バケモノになって永久に悔いなさい」
幹の、血に塗れた牙が光る。
大口が、音をたてて開けられた。
高く、高く掲げられた俺の身体から、蔓が解かれる。
重力に逆らうことなど、どうして出来よう。
俺の身体は大口に吸い込まれ……
起床した時、俺は全身汗塗れで起きました。
内容を覚えている夢の中では、ナンバーワンの悪夢です。