別館 ハタハタとカンコ

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3-10

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遺体安置室には、大災厄前の文明に作られた、人の記憶を脳内で結晶化する『メモリー』の摘出が終わったジャクソンの遺体が置さかれている。

 しかし……未だ、俺は遺体安置室には入れなかった。

「ここで何をしている?」

 声に反応し、顔を上げる。顔の左半分を覆う火傷が目に入った。何も答えずに、俺は視線を下げた。

「……どうして、ジャクソンが俺を助けたのか、考えていた」

 ジャクソンは『ダチ、守れたからな』と言っていた……だが、何故会ったばかりの俺を友人と思ったのか……どうして、出会って数日しか経っていない俺などを庇ったのか。

「ジャクソン・オーライル・ベンディッツ。ミックハイル第三師団第十大隊第六小隊所属第六小隊副隊長。荷電粒子銃のアッハライによる遠距離狙撃に定評有り」

 突然喋り始めたシンの口上に、顔を上げる。

「……何故、お前がジャクソンの過去を知っている?」

「奴の『メモリー』を読み取ればすぐにわかることだ」

 人の記憶を脳内で結晶化する『メモリー』という物体は、生物の進化だけでは、絶対に出来ないものだと現代の科学者は断言している。いつそういうものが脳内で形成されるようになったのかは不明だが、大災厄以前に遺伝子操作によって生み出されるようになったのではないかという見方が強い。どういう目的でこの『メモリー』が作られていたのか今現在では不明だが、サルベージした過去の技術により、その記憶を読み取る事は可能だ。

「奴は優秀なイクステリアだったが、過去の奴には、欠陥があった」

あのジャクソンに、欠陥? 何だ?

「奴は、昔、人が殺せなかった」

 ……!

「人を殺さずとも、国を、友を守る事はできる。そう公言し、実践していた。が、今から数えると、五年前だな……ミックハイルで内乱が起こったのは覚えているか?」

 記憶には、ある。アルムアートまで戦火は及ばなかったが、確か、片田舎でイクステリア部隊の反乱があった、という話を聞いている。明確な証拠こそ出なかったものの、犯罪国家ヴァレンシュタインのスパイが、その反乱を煽動していたとか……

「奴は、ある一件で寝返ったイクステリアを、見逃し、そのまま隊に復帰させた。軍事法廷に出せば、死罪は確実だから温情をかけたのだろう……しかし、その代償は高くついた。ミックハイルのイクステリア部隊第三師団第十大隊は、ジャクソンが見逃し、隊に復帰させたイクステリアによって、敵地のど真ん中に誘導され……壊滅した。中でも第六小隊の被害は甚大なものだった」

 シンは壁に寄りかかり、瞼を閉じ、続ける。

「それからの奴の記憶は、血に塗れている。遂には死に場所を求め、エトランゼ13に入隊した、というところだ。が、メモリーを読み解く限りではあるが、その一件以降、後悔ばかりの奴の人生に、一つだけ満足している出来事がある」

「……? 何だ、それは?」

「お前を、救えた事だ。奴は、お前と過去の奴自身をだぶらせていた。だからこそ、理想を掲げ、自分と同じ過ちを繰り返しそうなお前を、放っておけなかったのだろう」

 …………

「俺は……それでも、人を、殺したくない……」

「それで、命より大切なものを喪わなければいいがな」

 ジャクソンにも言われた言葉に反応し、顔を上げる。

 シンは、ただ俺を見つめていた。蔑むでもなく、憐れむでもなく、ただ見つめていた

「ジャクソンに、別れを告げて来い」

 遺体安置室には、ベッドの上に、白い布を被された遺体のみがあった。顔にかけられた白布を取る。焦点の合わない瞳で、ジャクソンは虚空を、穏やかな面持ちで見つめていた。

 顔に手を触れてみる。何故か、酸性雪よりも、白い肌は冷たく感じられた。

瞳に、その顔を焼き付ける。耳に、かつてなされた忠告を刻み込む。

「…………う……ぅぅ……ぅ……!」

瞼を閉じると、いつもいつも、アイツ等は笑ってんだ。

……せめてその瞳に、かつての戦友の笑顔が浮かぶよう祈って、彼の瞼を閉じた。

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