別館 ハタハタとカンコ

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イクステリア1-3

逃走

 ガラスが砕けたような音が、背後でたて続けに巻き起こる。敵手の氷刃が、自分に対して正確な狙いをつける事が出来ないのが、不幸中の幸いか。いや違う……正確な狙いをつける事が出来ないのではなく、あえて、つけていない。遊ばれている……!

 だからこそ、先程転倒した時も、即座に追撃されなかった。

 乱れる息を整える間も無く森を駆け……急制動。即座に左側面の茂みに身を潜め、左腕に巻いている、戦時用に作られたデジタル時計に眼を落とす。

 午前2時9分。戦闘開始から、すでに9分が経過。

 肉体・神経系の負担を減らすスーツの稼働時間は約1時間。しかし、連続稼動はどんな高性能のスーツを身につけても、10分以上は出来ないと言われている。

着用者の神経と肉体が、連続稼動についていけないというのが一点。それ以上の連続稼動には、スーツに内蔵されている電源だけでは補えないというのが一点。

 だからこそ、敵から距離を少しでも稼ぎたいにも関わらず、身を潜めなければ。

 自作のスーツは耐酸性の高いもの。このまま酸性雪によって枯れ果てた密林に身を潜めても、問題はない。木に背を預け、二本の短剣を腰の鞘に収める。

体勢的にはそれほど消耗する姿勢ではないのに、零下28度という低温と、初めての殺し合いの緊張が、熱を持った身体から体力を急激に奪っていく。

 一際大きく、雪を踏みしめる音が聞こえた。まるで自身の存在を声高に主張するように。雪明りのおかげで視界がいくらか確保出来る森には、刃渡り70センチほどの細身の剣を持った、あの男。

「逃げ一辺倒とは、なんとも歯ごたえのないイクステリアだ」

 イクステリア。

 対インセクト・ドラゴン用に能力開発された者達。だが施術に適合しうる者は100人に1人すら満たない、と言われている。神経を改良される事で銃弾の視認も至難の業ではなく、身体強化されたおかげで、素手で岩を握りつぶすのも可能。

 俺がイクステリアになったのは……より良いスーツを作るため。こんな殺し合いをするためじゃない!

「身体能力は、常人の10倍前後、というとこか。まあまあ高いが、いかんせん脳覚を全く使わない……『アンジール』の気配すら捉えられないんだろうな」

 イクステリアの最大の力は、大気中に放出された自己増殖型ナノマシン『アンジール』に命令の送信が可能な『脳覚』の存在。

 人殺しのための能力なんて、磨く必要はない。俺がスーツを作り始めたのは……

「まったく……あの双剣の『ブレイン・ウエポン』と『スーツ』を見るからに、さぞ歯ごたえのある奴かと思ったが……見当外れもいいとこだ」

『脳覚』のサポートを行い、円滑に『アンジール』に命令を送信するための兵器が『ブレイン・ウエポン』。人間の限界まで身体能力を引き出すイクステリアの肉体・精神・神経の負担を減らし、長時間戦闘を可能とさせる『スーツ』。

 そう、アスカがとびきり強い『ブレイン・ウエポン』を作って、俺がそれを支援する最高の『スーツ』を作る。

 極々平凡なイクステリアが、ルー・ライト・エイティスやレジナス・オーディン・シュピーゲルのようなSランクのイクステリアを相手にしても、打倒出来る武器とスーツ。

 そんな夢のような条件が揃えられたら、戦争を抑止する大きな力になる。だから俺はロンデニウム研究機関に所属して、ミュンツァーにスーツ技師として……

 取り留めのない思考が、頭の中を過ぎる中、男は腕時計に眼を落としていた。

「戦闘開始から10分……スーツの連続稼動限界時間だ」淡々とした、機械的な声。

 それには応えず、こちらはただ気配を殺し、石となるのみ。

「逃げ続けるのは無理だってわかってるだろうからな……隠れるならここか」

 ……!

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